恋媛百華繚乱

恋華・7

■side:H■


躊躇うことなく飛び込んでいったエド。
彼女にそうさせる存在が現れてしまった。
僕がどんなに望んでも成り代われなかった・・・彼女の弟が。

「・・・君にこの二年の彼女の苦しみが判るのか」

そう口にしてしまったのは無条件で全てを委ねてしまっている彼女とそれを当たり前のように腕にしている少年に無償に腹が立ったから。
それこそが二人にとっては当たり前なのだろうと判ってしまったから。
彼が異空間からの扉をこじ開け現れて、少女が躊躇うことなくその胸に飛び込み、涙を零す様を目の当たりにして。
胸が嫉妬で焼け焦げそうで。
いざ目の前から奪われそうになって初めてこんなにも彼女を愛していた自分に気づくなんて。


■side:A■


声をかけられて漸くこの部屋に僕ら以外の存在がいたことに気が付いた。
目を上げて驚いた。
鏡があるのかと思うほどによく似た存在。

「君は・・・?」
「彼女が言うところの『こちらの世界の君』らしい」

同じでありながら同じでありえない存在。
傍にいるのは納得できる。
僕らの縁深さから言ったらそれはむしろ当たり前で。
けれど。
姉さんが姉さんである限り、よく似ているからってそんなに簡単にどうこうなるとも思えない。
もちろんもっと時間がかかってしまったのならばどちらに軍配が上がったのかは判らないだろう。そこまでは僕だって言えないし。
辛かった時に傍に優しくしてくれる存在がいたら・・・差し伸べられた手をとってしまっても誰も責められない。
目の前の彼の表情からその微妙な関係までも察してしまった。
少なくとも彼は間違いなく姉さんに魅せられてしまった一人。
姉さんも随分戸惑ったろう。
相手が僕と同じ顔しててはね。

「姉さんは返してもらうよ」

例え誰であってもこの人は渡せない。
それが僕自身であってもね。


■side:E■


アルを認識して漸く身体がいかに不調を訴えていたのかがわかった。
さっきまでの騒動を考えても腰が抜けてしまったかのようで。
温かな腕に抱かれて意識が遠のいていく。
もっともっとアルを感じたいのに。


■side:H■


目の前の少年に抱かれたまま気を失ってしまった少女。
つい先ほどまで腕の中にいた彼女がこんなにも遠い。

「さっき僕に姉さんの苦しみがわかるかって聞いたよね」

聞き流されたと思っていた問い。
意識を失った小さな身体を大切そうに抱き直して傍に立った鏡の中の影のような存在。
覗く目の色だけが違う。

「百%は判らないよ。一緒にいられなかったからね。けど」

想像はできる。どんな風に姉さんが苦しんできたか、ある程度把握できるだけの付き合いはしてきたつもりだから。
そう、言い切られて。
悔しいことに反論できなかった。
僕はそこまで彼女を知ることが出来なかったのだから。


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