恋媛百華繚乱

恋華・6

■side:E■


自分ひとりの心でさえもてあましているのに、ハイデリヒの心まで思いやってやる余裕なんてない。
なのになんでこんなに胸が痛い?
どちらをとるかなんて考えなくても決まっているのに。
傷つけていることが判っているのに離れられない。
包み込みように愛してくれる彼の傍が居心地よすぎて・・・・怖い。

アル・・・アルフォンス。
こんなにも想っているのに心が挫けてしまう。
一瞬でも彼に抱かれてもいいかと思ってしまった自分がいる。
彼の愛情に対して妥協しようとしたのを結果として見抜かれて拒絶されてしまったけれど。
それでも突き放そうとしないハイデリヒの優しさはある意味とても残酷だ。
いっそ切り捨ててくれればいいのに。


■side:A■


見つけた・・・!

姉さんの僕を呼ぶ声。
異空間からのそれを漸く僕は捕捉した。
強く強く僕を呼ぶ声に僕の想いを同調させ、ぎりぎりまで感度を高めることによって二人の世界を繋ぐ扉を開くことが可能になる。
僕の全てをつぎ込んで導き出した方法は普通ならありえないと言われる方法で。
けれどその方法でないと姉さん個人を特定するなんて出来ないから。
細く細く糸を撚り合わせるように神経を研ぎ澄ませて。
差し伸ばされた姉さんの手をとるように僕はその扉を押し開いた。


■side:E■


気配を感じた。
時々感じていたそれとは明らかに違うはっきりとした気配。

「・・・アル・・・!」

アルが二つの空間を結び付けたのか。
そう思ったら走り出していた。
心についてこない身体に焦れながら必死に走る。
二年もの間、存在を確認することさえ出来なかった最愛の弟。

漸く・・・逢える。

「アル・・・!」


■side:A■


左手をいっぱいに伸ばし、倒れこむように飛び込んできた姉さん。
バランスの悪い走り方に手足を失くしたままなのだと判った。
飛び込んできた柔らかな身体をきつく抱きしめる。
しなやかで随分と女らしくなった姉さんの身体からはそれでもどこか懐かしい香りがした。
自由になる左手で強く僕の上着を掴み絞め、僕の胸元に顔を伏せたままの姉さん。
じんわりと濡れる感触で泣いてることが判る。
輝き流れる金糸は僕が知っているよりずっとずっと長くなっていて。
合えなかった時間の長さを感じさせた。


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