恋媛百華繚乱

恋華・5

■side:A■


姉さんを取り戻す術を探す旅の途中、師匠から使用を禁止されていた錬金術・・・・加減しない術は絶対にするなときつく言われていたのだけど、咄嗟に出てしまったものは仕方ないし。
その錬成の最中に僕は失った記憶を取り戻した。
両手を打ち合わせて輪を作り、循環した「力」で錬成を行う。
錬成陣なしでのそれのパワーは陣を使っての錬成よりもはるかに強大なパワーを秘めていて。
結果として僕が失っていた記憶をも取り戻すきっかけになってくれた。
僕から失われていた5年の歳月。
鎧を仮の身体として過ごした歳月を取り戻して。
いかに姉さんが僕を想っていてくれていたのかを再認識した。
姉さんがどんな想いで僕をこの世界へ置いていったのか。
そして・・・今の僕が本当はどんな存在なのか。
記憶を取り戻して格段に確率の上がったことを自覚して。
扉を開くことさえ出来れば今の僕なら姉さんの全てを苦もなく取り戻せるだろう。
それだけは間違いなかった。


■side:H■


僕が告白してからエドはあからさまに僕を避けるようになった。
目が合ってもすぐに目線を逸らせて。
極力僕と同じ時間を持たないようにしている。

そんなに僕の想いは君にとって重荷なの?

まさに今も僕を避けて部屋へ逃げ込もうとしたエドを漸く捕まえることに成功した。

「どうして避けるの」

捕らえた左手から顔を背けようとする様が頑なな心の内を表してるようでとても悲しくなる。

「少し話そう・・・お邪魔してもいい?」

妙齢の女性が異性を部屋に入れることに躊躇いを覚えるのは当たり前だ。
けれどあえてそう言わなければまた逃げられてしまうから。
少しの間をおいて入室を許された僕は部屋の中に納まっている蔵書のとんでもない量に思わず圧倒された。
無造作に積み上げられた本の山はあちらこちらで危なっかしさを感じさせる。
本が置かれてないのは机の一部とベッドの上くらいなもので。
二人で座れるのは必然でベッドしかなく。
気だるげな様子で座り込んだエドの傍へと僕も座らせてもらうと改めて問いただした。

「なぜ今になって僕をまた避けるの?」

唇を噛み締めて目線をけして合わそうとしない様子に彼女の中の葛藤を見る。
僕の望みは君を悩ませるだけなのだろうか。
ただ好きになっただけなのに。
細い肩へと何気に伸ばした手は過剰なほどに払いのけられて。
恋愛感情が入るならばこれ以上一緒にはやっていけないと告げられた。
彼女の研究には不要なものだと。

「何故?」
「それをお前が言うのか?」

漸くこちらに目線を合わせてきたエド。
何かを堪えながらも決めてしまった目だ。
僕は切り捨てられようとしている。
そう思ったとき何かを考えるよりも早く目の前の身体を押し倒していた。

小柄な身体はいともたやすく思い通りになる。
暫く抵抗を繰り返していた体から不意に力が抜けて、囁くような声が聞こえた。

「いい、よ・・・」

お前なら身体をやってもいい。
心をやることはできないからせめてもの償いだとそう囁いた声を耳にして。

・・・頭と心がしんと冷えた。

このまま僕が触れて一番傷つくのはエド自身だと判っているのか。
女性にとっての初めてがいかに大切なものか、そんなに経験の無い僕にだって判る。
いい、と言いながらも顔を背け、震えながらただ涙を零す姿は僕の望んだ姿じゃない。
まして泣かせたいわけじゃない。
傍で笑顔を見せて貰いたかっただけ。
ねぇ。
君のその涙は誰のため?

「・・・・他のやつを想って泣いてる女を無理やりものにするほど僕は落ちぶれちゃいない!」

吐き捨てるように出てきた言葉は今の僕の精一杯の虚勢。
本当ならこのまま抱いてしまいたい。
抱いてしまえば少なくとも体は僕のものになるけれど。
僕がどんなに似ていても彼女の思う相手でない以上、一生かかっても消せない傷を負わせてしまうことになる。
だから。
精一杯の強がりで僕は震える彼女の身体を離したんだ。


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