恋媛百華繚乱

恋華・11<<終>>

■side:A■


ハイデリヒの切羽詰った声に逼迫間が伝わってきた。
寝物語に聞いたこちらの世界の情勢はかつての僕らの世界のよう。
それもかなり危なげで。
早く引き上げることを考えなければと思っていた。
その矢先の情報。
ならば今すぐにでも帰る準備が必要で。

「何か必要なものはあるのか」
「いや」

必要なのはお互いだけ。
しかし。

「アル」

ハイデリヒを向こうに連れて行くことは出来ないかと。
このぎりぎりの情勢の中、彼をこのまま置いていったらどうなるか。聞かないでも判る。
けれど。

「同一の存在が同じ次元軸に同じように存在することは出来ないんだ」

今、がかなり特殊な状態。
僕自身が僕であって僕で無いからこそ可能な状態であるのだ。
それだって時間に余裕があるわけじゃない。
何の力も無い彼が僕らの世界に来ても消滅してしまうだけだから。

「・・・・消・・・・滅・・・・・・・?」
「だから」

どんなに連れて行きたくても連れて行くことは出来ない。父さんや姉さんがこちらへ抜けれたのってこちらの二人の存在が亡くなっていたからなんだ。

「僕は行けたとしてもここを離れる気はないよ」

そう口を開いたのはハイデリヒ自身。

「ここは僕の生まれ育った国だ。例えどんなことがあったとしても僕はここを離れる気はない」

静かにそう口にした彼。
その表情にはある種の覚悟が出来たように見える。

「役人が踏み込んでくる前に早く帰るんだ」
「姉さん、いいね?」

納得したくないって顔をしてる姉さん。
でもこればかりはなんともしようが無い。
しぶしぶ納得した姉さんを片腕で抱えて。
強く念じて入り口を引き寄せる。一度開いた場所は開きやすくなってるはずだから。
ただ願う気持ちが強ければ強いほど僕らが無事あちらへ帰れる確立が高くなる。

「・・・出来れば願って欲しい」

無事に姉さんが帰れることを。
穏やかに頷いた彼はこの後この国がどうなっていくのかを知っていて運命を共にする覚悟を決めたようだった。

「必ず・・・彼女を幸せにしてやって欲しい」

諦めた恋を彼なりに昇華しようとしているそれが最後の会話になった。


◇◇◇


こちらへ戻ってきて姉さんは金髪に青い目の年の頃の近い男性を目にするたび少し切なげな顔をするようになった。

彼のその後を知る術はもう僕らには残されていない。
ただせめてもと願う。
彼の上にも幸多かれ、と。


                ……………………………….Fin
       2005/03/27 脱稿/2005/06/04改稿/2005/07/19サイトアップ


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