恋媛百華繚乱

恋華・10

■side:E■


いつになく充足した目覚め。
何気なく目にした右手と身体に直接感じるシーツの感触に思わず飛び起きたらあらぬところに痛みが走った。
一瞬で昨晩の諸々を思い出して。
顔をあわせるのも恥ずかしいけれど、それ以上にアレは夢ではなかったのだと確認したくて。

「アル・・・!」

思わず呼んだ。
間違いなく昨夜のアレは弟であったのだと。


■side:A■


姉さんの声がした。
散々泣かせてしまった昨夜の営みにきっと真っ赤になっていることだろうと少しだけ離れていたのだけど。

「おはよう姉さん。起きれる?」

穏やかな朝。
一晩を過ごして今日、僕らは元の世界へ戻る。
二人揃えば不可能なんてない。


■side:H■


早く・・・早く送り返さなければ。

昨夜、どうしても同じ屋根の下にいたくなくて酒場の隅で夜明かしした。
そこで聞きつけた情報は一時の猶予も無いもので。
逸る気持ちが抑えられない。

急激に悪化し続ける情勢が僕ら学生にまで魔の手を伸ばそうとしている。
早く二人を帰さないと取り返しのつかないことになってしまう。

「起きてるか!」

エドの部屋のドアを叩くと気分的にあまり見たくないほうの顔が応対してきた。
やや機嫌が悪そうなのは見なかった振りだ。
それどころじゃない。

「二人とも早く帰るんだ」

今にも伸びてこようとしている政府の手。
捕まったら最後、二度と今までの暮らしには戻れないだろう。
だから。

早く彼女を連れ帰ってくれ。
安全な・・・その世界へ。


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