恋媛百華繚乱

『ある愛(?)の歌』



          ◇   ◇


「・・・・お前くらいだぞオレなんかをこんな扱いするのって」

言うつもりなくてもついつい言ってしまう。レディファーストもいいけれど、やりすぎだ全く。

「貴女が嫌がるからこれでも随分控えめにしてるんですよ?」

不本意そうに応えたのは同居人、というよりオレが転がり込んだんだから一応家主のアルフォンス・ハイデリヒだ。ひょんなことからオレの性がばれてしまったのが運の尽きというかなんと言うか。それ以降どう考えても過剰なほどのフェミニスト振りを発揮し捲くってくれて少々食傷気味になってしまっている。
まぁオレは気にしなくても男の身で傍に異性がいるってのはいろいろと気にすることもあるんだろうと思うので、こいつには同居する際には話す気ではいたけれど。弟と同じ顔をしてるせいかつい必要以上に気を抜いてしまうところがあるのは否めない。そのせいか、全く男と一緒に扱えと始めに主張したのはあっさりと却下された。そして女性を女性として扱うのに何の問題があるのかとかえって切り返してきた。
随分前に弟とやり取りしたことのあるそれになんとなく既視感を覚え苦笑した。言い出したらきかない弟には2人だけのときはコチラが妥協することで納得させたのだ。
そして顔だけでなくそんなとこまでそっくりなこいつにもオレは同じ提案をする羽目に陥り、不承不承ながら彼もそれを受け入れたのだ。
だがしかし・・・・自宅での対応振りってのが半端でない。予想外のことに堪り兼ねて苦情を申し立てても先の約束を逆手に取られてしまうと反撃のしようもなく、せめて加減をしてくれというのがやっとだ。それでも相当不満のようだがそれには気付かない振りをしておく。

「控えめ、ねぇ・・・・ってことは世の女性達ってのは随分丁寧に扱われてんだな」
「僕に言わせてもらえるんならコレだけ守らせてくれない人って貴女が初めてですよ」

ため息をつきつつ零す言葉にため息尽きたいのはこっちの方だと思う。幼い頃から大概のやつに負けたことなんて無い。ある程度育ってからはアルになかなか勝てなくはなったけれど、それでも女だからというあからさまな対応をされたことなんてなかったから。
正直どう対応していいのかわからないのだ。まして相手は弟と同じ顔。それでいて弟よりも顕著な扱いに戸惑いが隠せない。

(大丈夫って言ってもきかねぇんだもんなぁ・・・・・)

アルより性質が悪いとついつい再びため息が出る。本質的によく似ているのは対になる存在のせいなのか。
同一視をするつもりは無いのだが全くの別人としても扱えないのだ困ったことに。
二人のアルフォンスにはそれほど共通するものがある。そしてオレは共通点を見つける度にこいつに甘くなっていくのを止められない。
自覚がある分厄介だ。けれどこれに関してはこっちが折れると本気でフェミニスト振りをところ構わず振り撒いてくれるのが判っているので(すでに何度もかまされた・・・)こちらとても必死である。あんなに自分に合わない対応も無いというもんだ。相手にもよるってのくらい理解して欲しいと思うのは俺が狭量なせいではけしてないと思うのだが。

「なぁアルフォンス・・・・オレにそれが必要かどうかくらい、今更わざわざ説明しなくたって判ってるんだろう?」

ため息混じりに問いかけてやる。この状態で頑固に自分の我だけを押し通すようなやつに俺は傍にいるのを許した覚えは無いぞ。
そう思いながら声をかけるとあいつも同じようにため息つきつつ返してきた。

「・・・・判ってますけどね、貴女がこういうのうっとおしがってることぐらい。・・・でも無意識にやってることを意識的に抑えるのって結構難しいんですよ僕も」
「無意識・・・・?」

こういうのを無意識にってのはよほどのことか本質的にあってたのか。アルのことを考えると本質的なほうに一票かなこりゃ。あいつも要素はかなりあるから・・・・発揮する対象が微妙だったってのもあるのかもしかして?

「そうですよ。ちっさい頃から叩き込まれたんで・・・・身体に染み付いちゃってるんです僕」
「ちっさい言うな」

ついつい必要以上に反応してしまうのはオレ自身条件反射になってしまっているので勘弁してもらいたい・・・・と思う。

「貴女のこと『ちっさい』なんて言ってないじゃないですか」
「今言っただろ」
「・・・・いちいち子供みたいに剥きにならないでくださいよ」

仕方ないなぁと呟く姿までダブって見える。最愛の弟は今どうしているのかと普段できるだけ考えないようにしている出来事に気持ちを囚われる。
無事・・・・・なのか。

「エドワードさん・・・・・?」

呼ばれてふと目を上げると少し眉間に皺を寄せ、気遣う顔をしている。
いつだってそう。切なくなるほどに優しい・・・・。

「・・・あーあ」

止めだ止めだ。
見上げてくる弟の瞳に弱いのは昔から。色は違えど同じ瞳を向けてくるものにオレが勝てるわけ無いじゃないか。

(こいつの場合、判ってなくてやるから余計性質が悪い)

もう一度大きなため息をつくと過去幾度も繰り返された一言を諦めて放り投げた。

「外でやらないって約束できるなら好きにしろ」

途端にっこりと邪気の無い(判ってやってるとしたら邪気たっぷりの)笑顔を浮かべる顔を見やりながら肺の底から搾り出すようなため息をついてやった。
それくらいの意趣返しくらいは許されるよな・・・・?

                              fin
                            
                           2005/09/04up
                       2005/09/08修正&サイトアップ
                      
                      



9/4ハガネナデシコ七変化にて新刊をご用意できなかった悪あがきの結果・・・・です;;
色気もそっけもないのは姉さんに恋愛感情がないせいでしょうか。でも他人とは思えなくて冷たくは出来ない姉さんです。ハイデリヒの方は微妙なとこですがね;;
実はこういう微妙な感じが案外好きだったり(^_^;)プラトニックで片方が友達以上恋人未満な微妙な感じ。自覚が無いと案外会話が掛け合い漫才になったりして。
って言ってる私のが微妙ですかそうですか。